東京高等裁判所 昭和29年(う)3104号 判決
被告人 網野久男 外
〔抄 録〕
弁護人Aの論旨第二点について。
原判決が原判示第二事実及び第四事実認定の証拠としてデールマックナルティー作成の盗難被害届を挙示していること並びに右被害届については単にデールマックナルティーの英文の署名と認められるものの外の記載は、すべて日本語で記載されているものであることは洵に所論のとおりである。而して外国人がこのような盗難被害届を警察署係官に提出し、これを裁判所に盗難被害事実の証拠として提出する場合においては、外国人がその国語で被害の顛末を記載し、これに署名したものを提出し起訴官憲においてこれにその日本語の飜訳を添えて提出するのが通常の適式な方法であらうけれども、右の順序に従わなかつたからといつて、すべて右の被害届が証拠能力乃至信憑力を欠くもの、延いてはこれを証拠として採用する手続が違法であると即断することはできない。本件右被害届二通の形態はなるほど所論のとおりであつて、右被害届と同時に提出された他の盗難被害届四通もともに全く同一の形式のものであり、多数の盗難被害届に共通する部分を不動文字で印刷した警察署長宛の被害届用紙の被害者の住所氏名欄、被害の日時場所欄、被害金品の品目、数量、時価及び所有者欄、犯罪の方法欄、被疑者の氏名又は人相特徴欄等にいずれも日本語を以て漢字平仮名まじり文で記載されており、届出人としてデールマックナルティーなる英文の署名(右六通の届出人氏名の英文の記載は、いずれも同一筆跡であることが容易に看取されるのであるから、反対の事情の認められない本件では届出人自身の署名と推認される。)が存するのであるから、これにより右届書は被害の届出に当り(一般に外国人が自ら日本語で申告することはあつても、漢字の加わつた日本文を完全に書き得る外国人は稀少であること吾々の日常経験するところである。)被害者側の通訳において右デールマックナルティーの外国語の供述を日本語に飜訳して右被害届に記載して提出したか、警察係官において同人の日本語による被害の届出又は右通訳を通じての届出を通訳による日本語に従つて記載したもの(右通訳が警察署側すなわち届出を受領する側の者であつても同様である。)のいずれかであるものと推察されるのである。然らば刑事訴訟法第三百二十一条第一項にいわゆる被告以外の者が作成した供述書は、供述者の署名又は押印がなくともその内容が供述を記載したものであることが明らかであれば差支ないと解すべきであるから、このような形式の被害届であつても右法条にいう供述書に該当しないと解する根拠はなく、同法条項の要件をみたすかぎり、右の供述書として適法な証拠とすることができるものといわなければらない。而して原審において検察官が刑事訴訟法第三百二十六条により被告人側の同意を得て証拠として提出し、その証拠調を終了した電話聴取書(記録第三五一丁)の記載、原審証人内海三郎の供述等によれば、本件被害の原判示米軍施設ノースキヤンプ構内被服倉庫の本件犯行当時の監理者であり前記被害届の届出人であるデールマックナルティー少佐は、昭和二十七年八月頃米国に帰還し現在日本国内に在住していないことが明白であり、且つ右被害届の内容は本件犯罪事実の存在の証明に欠くことのできないものであることも明白である。又その記載内容についても前記の如き方法によつて記載されたからとて必ずしも常にこのような場合正確を欠く信用すべからざるものというべきではなく、却つて、原審証人内海三郎の供述内容(所論は、同人名義の被害届の作成について「その頃刑事が私のところへやつて来てその様に書けといわれたので係の兵隊に聞きましたところ、書いてやれと指示されたので、書いてやつたのです」と全く内容が信憑すべからざるものの如く主張するのであるが、右供述内容に続いて「刑事に云われるに盗難被害の事実はわかつて居たか」との問に対し「判つて居ました」と答えているのであつて、却つて同人名義の被害届の信用すべきものであることが確認できる。)その他関係証拠によれば本件被害届の記載内容も信用性のあるものであつて、その記載が特に信用すべき情況の下にされ、且つ、任意性のあるものと推認するのが相当であつて右推認を覆すに足る的確な証拠も存しないのである。然らば、本件被害届は、刑事訴訟法第三百二十一条第一項第三号により適法に証拠となし得るものであつて、これを本件犯罪認定の証拠に供した原判決にはこの点につき所論のような証拠能力のない且つ信憑性のないもの乃至は原審の採証の措置に違法のあるものとするに由のないものである。論旨は理由がない。
註 本件破棄は量刑不当。